咬合調節彎曲板


Muronoi-code咬合調節彎曲板 Muronoi-code辞書
Muronoi-code咬合調節彎曲板をもちいた機能咬合総義歯(動画) 彎曲板申込書.pdf
 

機能咬合学を目指した上顎を基準とする調節彎曲の試み

コンセプトと臨床応用:咬合調節彎曲板を使用した咬合設計の総義歯・
             局部床義歯・インプラント補綴・フルマウスリ
             コンストラクション

   Key word: 理想咬合・調節彎曲・犬歯誘導(前歯と臼歯の機能)・
       動的咬合・口蓋正中線・咬合原点・補綴物の再現性


   室野井 基夫(Motoo,Muronoi,D.D.S,Ph.D
   医療法人 室野井歯科クリニック
   320-0021 宇都宮市東塙田2-2-18

1、 緒言

古典的な咬合構築法よる補綴構築は具体性にかけ、難解なものになっている。咬合の診断と作製するための咬合器も顎運動機能を再現できるものではない。さらに、顎関節においても特異的なことを除いて、始めから顎関節に問題を惹起することはなく、多数歯欠損や歯冠の崩壊、歯列不正、不良な補綴物、咬耗などにより咬合が変化する事によって顎関節も不安定な状態になり、下顎頭や関節円板の位置関係に問題を起こし、過大な力が下顎頭や関節円板及び関節窩に加わることにより関節の器質的変化を起こす。咬合の変化は、加齢によるものやストレス等のメンタルファクター、全身との関係が要因になることも知られる事であるが、一度崩壊した咬合は二度と戻る事は無く、崩壊の助長に過ぎず、筋機能機構に関係する顎運動は、方向、運動量も変化し、より不安定になる。欠損してしまった歯牙や偏位してしまった顎位に対して、歯牙・歯列の位置関係の情報は全く失われるので、より不明瞭になる。補綴物は静的咬合のもとに作製されて口腔内に装着され、顎運動機能を行うことにより動的咬合が発生して、はじめて問題が生じる。完成補綴物が咬頭干渉してイメージが全く異なったものになることや、咬合調整を行うことによって咬頭が消失するなどということもあり、ときには補綴後に顎機能障害や不定愁訴complaintsが発現するといったこともある。歯牙や歯列が欠損や変化する場合は、必ず原因があり歯牙歯列の形態変化は、形態に合った顎運動をし、運動は機能を表すため、更に形態変化を起こすので、原因を残したまま補綴空隙に並べるだけの補綴方法は、咬合を崩壊させてしまうだけである。

咬合の構築は、軟組織を含め様々な要素が複合的に満足するものでなければならないが、補綴法にガイドラインはあるもの咬合設計法がなく機能的に咬合を再現することができない。咬合は、補綴が成功してもしなくてもその是非を検討する必要がありフィードバックの可能なものである必要性がある。明確な咬合設計と術後の検討というコンセプトは重要な要因で、これをもたない補綴法は進歩のないものになってしまうであろう。故に、補綴の設計は機能性のある理想咬合を目指したものになり、顎位が長期的に安定し、歯牙・歯列が保存され、審美的にも優れた筋機能機構を安定させるものでなければならない。

補綴構築法の不安定さを具体的にするため、歯列模型の計測結果を考察し上顎位に対して下顎が起動し、終息する3次元ポイントを、咬合原点とした。上顎咬合平面と、咬合原点を中心とする調節彎曲を利用し、歯軸を付与した球面上に上顎歯列を配列することのできる新しい咬合調節彎曲板を使用した咬合設計と機能咬合の付与の予知を@総義歯A局部床義歯Bインプラント補綴Cフルマウスリコンストラクションの臨床補綴例を通じて紹介したい。これらが、咬合を定義する一助になればと考えている。

2、 目的

咬合の付与や調整する場合、これまで用いられてきた義歯設計等の基準を出発点とすることが多いのが現状である。すなわち古いものでは、Bonwill 三角、Spee弯曲、Monson球面などの基本的な観察をもとにして下顎運動の円滑な動きとして機能的に組み立てられたものであり、咬合平面は、カンペル平面(HIP平面)、フランクフルト平面などが広く用いられている。あるいは隣在歯との関係や対合歯との関係のみから局所的に調整が行われることが多い。

   作業用模型のマウント方法には、Face Bowによるものと、平面板、斜面板と呼ばれるもので装着してきた。双方とも機能性を持たせるためでなく、模型の装着に使用されてきた。これらを用いた方法は、補綴物の再現性の点から、配列や対称性、歯軸、咬頭頂の位置などの機能的に必要なものを付与するのは難しい。本来、補綴模型のマウントは、頭蓋のX軸、Y軸に対して的確に付着されなければならない。Z軸を表現するためには、まずXY軸が確実に付着されている事が必要であり、先人達の教えによる彎曲、ガイダンスをふまえ作業模型は咬合器に付着させる必要がある。

   咬合様式にはフルバランスドオクルージョン、グループファンクションドオクルージョン、ミューチュアリープロテクテッドオクルージョンがある。フルバランス、グループファンクションでは、接触量的に違いはあるが側方圧を与える設計に位置づけられる。歯牙・歯列を長期保存していくために咬頭干渉は重要な観点になる。

補綴物の再現性という点で、従来の方法では不適合な点を発見しにくく、支台歯の配列、隣在歯との比較、対合歯との比較が容易に行えないため、干渉等の問題を発見しづらく、機能的に安定した補綴物の作製についてはまだ問題は多い。

咬合調整によってさえも、依然として咬合異常に関連する様々な臨床的問題点は存在しており、そしてその原因が明瞭でない症例に遭遇することがある。

そこで治療の出発点である咬合について再検討し、多数症例の模型を用いて解剖学的計測を行い、咬合平面を再検証することから始めた。上顎歯列の配列について注目し、側方運動時に臼歯部が接触せず、最も効率よく咬合圧を負担できるための方法として咬合調節彎曲板を作製した。この咬合調節彎曲板は、D’Amicoによって提唱された犬歯誘導の考えを取り入れながら補綴物の製作を容易にするためのものであり、側方運動に対して最も効率よく負担を受け止めるための構造と機能を有する犬歯の位置を重要視したものである。

現時点では未解明の部分が多いが、多数症例で用いた計測結果から得られたデータをもとに、出発点として最良と思われる咬合付与をめざした。

  

3、 方法

咬合付与・調整の3次元的要素の検討

  @、解剖学的測定

   総義歯の設計についても一度失った歯牙・歯列から3次元的位置関係は全く情報がなくなり、残存した歯牙であっても、これが正常とは限らず全てより検証する必要があり、咬合付与の参考になるものは既存の歯牙・歯列からのデータのみである。

@     上顎模型の解剖学的検討

A,模型マウントするための方法の検討

上顎作業用模型をマウントするためには最低3点支持が必要であり、本来は4点支持できれば平面を決定する要素が得られるのであるが、顎はアーチ状のため3点支持の検討を行った。模型をマウントする要素として、上下顎は全て軟組織上に存在するため支持ポイントとしての方法は、画像等よりポイントを割り出して軟組織上に3点支持ポイントを得ている場合でも不適であり、上下顎の補綴作製支持ポイントは、歯牙等の変化のないポイントに置かなければならない。隣在歯や対合歯の変化のないポイントに支持ポイントがある場合は容易である。

解剖学的には前方位を同一条件で付着可能な切歯乳頭を、後方位は左右ハミューラーノッチを採用した。切歯乳頭は、犬歯の位置を規定化する基準とすることにより前方位ガイダンスの再現は可能にするためのものである。ハミュラーノッチは、口蓋帆張筋の腱付着上にあり緊張・弛緩により変化し、左右の位置も対称ではない。しかし、従来の顔面基準などとの併用にて咬合平面を考察できる。

欠損した歯牙・歯列は3次元的位置に存在し、顎は運動するために歯牙・歯列を決定するジグになるものと検討項目が存在するなら、同一条件での模型の採得、そして同一部位を使用したHIP平面支持は、再現性という点では可能と考えた。これは、3次元的上顎咬合平面を与えることにより直接、ロー堤や残存歯牙に支持を求め、平面により再度マウントすることにより、上顎位に対してX軸、Y軸を正確に付着させることが可能になった。

B,前歯部と臼歯部の犬歯部での分配位置の検討

犬歯誘導において犬歯の位置は適切に配置しなければならない。歯列に対して犬歯がどのような位置にあるのかを検討する。左右犬歯切縁間距離は平均約36mmで、口蓋において切歯乳頭後縁が犬歯遠心の線上に存在することを確認した。

C,左右対称に配列するための方法の検討

口蓋正中線は、口蓋正中縫合上に存在する。

3次元的歯牙歯列を左右対称に配列する基準として使用する。

4点支持ポイントによりマウントされた模型は、咬合平面が得られ、口蓋正中線より直角に上顎第一小臼歯から第二大臼歯までの各測定ポイント計測することにより連続した左右対称歯列配列を行い、前歯も順ずる。これに対合する下顎の歯牙・歯列が上顎に習い、左右対称に配列可能になる。臼歯部の咬合は、咬合高径の維持と確実咬頭嵌合位による咬合設定のため前後・左右的均等な歯列配列が必要となる。

 

A     模型歯列の測定

A、上顎歯列の測定:正常咬合と思われる、生体顎模型、補綴後長期保存された補綴模型、義歯模型を歯牙の植立位置を測定した。

  総数442例 平均値

  結果:a ;犬歯切縁と第2大臼歯中心窩距離 34mm

b;上顎左右歯牙間距離

中切歯

9.0mm

側切歯

24.6mm

犬歯

36.0mm

1小臼歯頬側咬頭頂

44.4mm

2小臼歯頬側咬頭頂

50.4mm

1大臼歯近心頬側咬頭頂

56.0mm

2大臼歯近心頬側咬頭頂

64.0mm

2大臼歯中心窩   

55.0mm

   B、上下歯牙模型の検討:

歯列アーチが、左右不対称、歯牙の不連続や不正歯列、上下顎どちらかが欠損やすれ違い咬合の場合、対合する上下顎どちらにも程度に差こそあれ問題は起っている。咬頭干渉などを引き起こす原因としては、歯牙歯列のガイドの不正、歯牙の位置の不正、咬合面形態の不正などがあげられるが、前歯部においても、平面やOver jet,Over biteが変化している。

  

  A機能解剖学的検討

   顎は運動するために、犬歯誘導によって臼歯部の咬頭干渉をさけ側方運動時、最後臼歯での接触を避けるための彎曲を検討した。

   方法:頭部規格X線写真から弯曲の曲率半径を算出 

   症例:咬耗の少ない1824歳成人男性107例、成人女性74

   結果:SR124

   

4、 歯列配列のための調節彎曲板の開発

歯列配列に関する検討の結果を補綴物に再現するために、咬合調節彎曲板を開発した。

咬合調節彎曲板は、上顎歯列配列を目的とした、SR124の曲率半径をもつ凹面をもち、切歯乳頭と犬歯、口蓋正中線の位置を合わせハミュラーノッチと3点支持し、同時に歯軸を前・側面より決定する構造になっている。模型マウント後、欠損した歯牙や歯列不正修復の3次元的歯牙・歯列の配列ポイントが明記され、ジグの役目を果たすため4点支持も可能になる。この咬合調節彎曲板を使って配列することによって、症例を選ばず簡単に一定の条件で配列が可能になる。 

             

5、 咬合調節彎曲板の使用法

  基本的には症例を選ばない。歯牙・歯列の3次元的位置を咬合調節彎曲板により設定するため同条件にて何度でも再現性を持たせることが出来る。無歯顎は歯牙情報が全く欠如するため、追試できる様に無歯顎模型を用い説明したい。
@、上顎模型の設計
  切歯乳頭のマーキング、口蓋正中縫合の線引、口蓋正中縫合線に直角に切歯乳頭後縁部に横線を線引、ハミュラーノッチ部に口蓋正中縫合線と直角に線引し8ラウンドバーで直径2mmに切歯乳頭にマーキングする。
A、中切歯位置測定ジグ
  審美ポイントの位置測定の方法として、切歯乳頭より仮想中切歯までの長さを測定する。測定長を切歯乳頭支持ピンの長さに反映する。
B、ハミュラーノッチ支持プレート
   前方の切歯乳頭支持ピンと後方位の口蓋正中線に合わせ、左右ハミュラーノッチを直角になるようマウントする。この状態で、咬合器上弓に石膏にてマウントする。
C、切歯乳頭支持ピンとハミュラーノッチ支持プレート外し、仮想中切歯位置に咬合調節彎曲板を上顎平面として固定し上顎位を決定する。
D、上下模型を咬合採得後マウントする。
E、再度、咬合調節彎曲板を装着し、始に上顎を配列する。
  犬歯の遠心ラインに合わせ前歯から配列する。  
F、犬歯切端を、平均値
36mm、口蓋正中線より18mmに左右対称に配列し、規格溝を参考にしながら前歯部より配列する。口蓋正中線より第二大臼歯中心窩より27.5mm、左右で平均値55mmに設定する。最後臼歯を、平均値近心頬側咬頭64mm、口蓋正中線より32mmに左右対称にロー堤に計測しておく、それぞれに咬合調節彎曲板第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、最後臼歯の順に、正・側規格溝に頬側面が平行になるように配列し、口蓋正中線より左右対称に定規にて計測しながら頬側咬頭と舌側咬頭が、咬合調節彎曲板に当たるように配列する。自然に歯軸が形成され、調節彎曲も左右均等に形成される。
G、下顎配列は、上顎犬歯と第一小臼歯の間に下顎第一小臼歯を配列し、臼歯部を先に配列し上顎機能咬頭内斜面と下顎機能咬頭内斜面だけを接触するように配列し、最後に前歯部を配列する。この方法により、1歯対2歯の咬合関係に配列できる。

6、 咬合調整

 咬合設定された補綴物の微細なズレを調整することにより、咬合高径と臼歯部での上顎に対する下顎位の左右前後的アジャストを行うことである。これは咬合原点に下顎位を近づけることであり同時に咬合関係の少々の“ゆるみ”と前方ガイダンス始まる前の臼歯部での“すべり”の咬合関係を確立することにあり、前方での左右対称な対合関係とスムースなガイダンスが容易になることである。

@、咬合器上での咬合調整は、中心位のみのタピングによる調整を行い、早期接触の除去を行なう。機能咬合内斜面のみがコンタクトするように調整する。
A、装着後は、始にタピングによる咬合を行い、左右第一小臼歯から第二大臼歯までが、均等に機能咬頭内斜面のみがスポットによる咬合接触が行われるように調整し、次に側方運動を行い、咬頭干渉がある場合は下顎の咬合面を調整し、上顎の咬頭高を削合さないように下顎の咬頭窩と機能咬頭内斜面咬頭高及び非作業側の咬頭干渉を除去する。最後に、犬歯誘導が左右対称になるように様に一方ずつ下顎犬歯頬側を調整し、この際に、下顎中切歯、側切歯の干渉があれば削合する。
B、長期的には各項目にて説明を加えるが、総義歯、局部床義歯の程度によっても異なるが、咬合関係に変化が起らないよう緩くなったらリベースを行い、顎位の変化を防ぐようにする。有歯顎は、X線写真によるアプローチと咬合の変化を観察し特に歯牙の動揺、歯槽骨の吸収、咬頭干渉とガイダンスのチェックを行う。両者とも、咬合関係は常に変化するため口腔環境メンテナンスを6ヶ月に1度の定期的チェックが必要である。この段階にて問題が出た場合は、問題の検討と考察そして改善を行うことが、フィードバックの積み重ねとなる。

7、 顎運動のリハビリテーション

顎運動は、複雑な筋機能機構と靭帯により構成されているため、長期間に渡る顎運動の異常は咬合関与筋、靭帯組織だけではなく、下顎頭や顎関節窩など硬組織にまで影響が及んでいる。器質的変化が生じている場合、咬合高径、顎位の修復など正確に咬合関係を修復しても筋の不調和は直ちには改善されず、違和感や筋肉痛、不定愁訴なども発現することもあり、左右対称的でスムースな下顎運動や十分な開口運動の障害の改善に数週間の時間を要することがある。

全身的には、咬合調整を繰り返しながら軽い運動やストレッチ、対症療法的に機能不全を改善させる必要がありそのため、鍼灸、カイロプラクテック、整形外科、神経内科等の連携によるアプローチも必要とされる。

まとめ


   @上顎を基準とした歯列配列は、3次元的配列を可能とした。
   A補綴時の側方圧なくするために球面上に上顎歯列を配列することは、機能咬合を付与する一助となった。
   B補綴物の再現性は顎運動の3次元的要素解析に有用である。
   CXY軸に対する確実な上顎付着は、Z軸の運動解析要素となる。
   D 切歯乳頭を前方位基準とした犬歯の3次元的位置関係は、犬歯誘導を可能にした。また、上下顎左右対称の配列は、ミューチュアリープロテクテッドオクルージョンを可能にした。

 これらに従い、@総義歯A局部床義歯Bインプラント補綴Cフルマウスリコンストラクションの臨床補綴例を通じ、詳細に報告したいと思う。最終稿にては、これらを比較し咬合の基準となる定義を論じたい。

参考文献;
  1) 保母須弥也監修、Angelo D’Amico,犬歯誘導の起源、株式会社書林、1976
  2) 歯科医学大辞典編集委員会編、歯科医学大辞典、医歯薬出版、1995
  3) 石澤隆之、室野井基夫、大家清、咬合と姿勢分析とくに体重配分比との関連、Health Science16:372,2000
  4) 日本補綴歯科学会、咬合異常の診療ガイドライン、補綴誌第46巻第4号、2002
  5) チェアサイドで行う顎機能診査のための基本機能解剖、補綴臨床別冊、医歯薬出版、2004
  6) 伊藤隆著、解剖学講義、南山堂
  7) 室野井基夫、ヒト頭蓋における鱗状縫合のレ線的及び組織学的研究、歯科基礎医学会雑誌、第40巻第2号、1998
  8) 長谷川成男、坂東永一監修、臨床咬合学辞典、医歯薬出版、1997
  9) 福島俊士、鈴木直樹監修、4次元下顎運動アトラス、医歯薬出版、2004